大道芸通信 第302号

画像『風俗画報』が載せる大道商人

『風俗画報』は、明治二十二年(1889)から大正五年(1916)まで二十七年間にわたって東陽堂から刊行された、わが国最初のグラフ雑誌であり、風俗研究誌である。全五百十八冊。藩政時代から明治・大正の世相・風俗・歴史・文学・事物・地理・戦争・災害等、あらゆる分野に及んでいる。主要な記事には石版刷の挿絵(後には写真)を附し、知らない人の理解力を扶けている。
しかし、余りに膨大である為全冊目を通したことはなかったが、今回機会を得て目を通すことが出来た。その中から、参考になり且つ自分が面白いものを、後々資料となるよう原文の儘紹介する(但し、誤字脱字の責任は取らない)。

大道所見 高橋柯亭
其の一 売卜者

これは一二年以来の流行で、余り雑踏でない縁日などの所請場末へ、美術学校の制帽らしいのと鼻下の八時髭とが、唯一有力財産で、それの附録ともいふべき覚束ない天眼鏡と得意の卦の表を書いてある提灯とを以て、しきりに通行人を捉へて、やれロハで見てやるの、やれ何の相が顕はれて居るのと、口から出任せの雄弁を揮ふて居る内には、世間は広いもので、此大先生に大枚二銭を奮発して、過去現在未来をうるさく聞いて居る田舎爺をあれば、裏長屋の妻君なども見掛る事も少なくない。

其の二 競売

九段坂の下、万熊といふ小料理屋の前に、天気でさへあれば午後から盛んに大声を振り立てて客婀を寄せて居る。勿論大概の縁日には必ず二三軒は見受けるのである。で、その売り物は、沓下(くつした)手袋より兵児帯(へこおび)シャツなぞとあって、其の売り方が妙である。「サア諸君、これは舶来一品無類飛び切りの上等ですよと(一枚のシャツを見せ)如何(どん)な安売りの勧工場へ行っても、中々一円や二円で売る品でないですよ.処でこれを諸君に施し半分に売るのですから、何程(いくら)でも価(ね)を付けて下さい。サア、出したものは何程でも手放すです。(一段声を上げて)サア何程、エエナニ二銭五厘ですと。何程何(なんぼな)んでも可愛相ですよ。サアもう少し、サア何程(いくら)」と、大声といふより寧ろ吐鳴るので、結局二三円といふものを、三十銭内外で売るのである.これも二三年前からの事で、帰って相当の利益を見られるそうだ。
 (以上212号・明治33年6月5日発行)

其の三 刷毛書

これは余り類と真似手のないので、時々山の手辺の縁日なぞで見受けるのみである。年齢凡そ四十前後の人物で、二三種の刷毛を用いて巧みに書画を即座に書いて居るが、頗る(すこぶ )器用である。で、商売が余り下卑でないのと、人物も左程見苦しくないのに、袴を着けて居る体裁なぞが、誠にその経歴を聞きたく思ふ位である。或は松竹梅とか、鶴亀とか、恵比寿大黒とか、数枚出来上がると「これは萬実来、これは松竹梅、文字の方は一銭で、画の方は一銭五厘です」なぞと、別段無理に押し売りをしないのが、帰って、客の気に入るので相応に買人があるようだ。

其の四 かりかり煎餅

下町の新道など 毎夜九時前後に、横へ長いブリキ製の缶の様な物を肩から脇へ掛けて、提灯一つ持たずに少し急ぎ足といふより、寧ろ何者かを追駈ける気持ちで行く。一種のせんべい屋がある。即ち之れが「かりかり煎餅屋」其の人なので、可笑しいのは、其の売り声である。高く寒走った急調子で、「雨が降ってもかーりかり。りかりかりかりか、かーりかり」といふのである。で、如何にも其の調子が面白いので、八丁堀辺の子供なぞが旨く真似するのを聞いた事がある。
(以上214号 明33年8月10日)

現在、当会で「かりんと売り」としておこなっている売り声の元は「煎餅売り」の売り声であったことを初めて知った。参考のため「かりんと」売りの売り声を記す。
かー、りかりかりかりかりかりか ドッコイショ。雨が降ってもかーりかり。かりかりーの かりんとー

 琵琶葉湯売の呼売文句
岡田 大蓮

本紙(風俗画報)前号に、江戸時代の風俗画あり。其の中に琵琶葉湯売りの様ありしが、街頭を呼び歩く文句は頗る面白き効能付き故、読者に知らするも亦一興ならんか。琵琶葉湯売りは、薬湯を荷ひたりものを、所謂親方と称する者と両人同行し、薬湯昇(やくとうかつぎ)はまづ。
京都烏丸本家、琵琶葉湯=第一は暑気を攘へ、寝冷え、霍乱(かくらん)、頭痛と眩暈(めまい)、たちくらみ、子供衆には五疳と強風、女中衆には産前産後地かた血のみち胸の痛み、しぼり腹には下り腹、はらはら一切のー妙ー薬-。
と呶鳴り立つれば「親方」は其の後より、切り口上にて少しく滑稽的に(幾分自慢の風を装ひ)長々しくも。
京都烏丸本家、琵琶葉湯は、只今御耳に達します通り、ー琵琶えふとう、びわさんこうの義は、京都は二条通上る町綾小路烏丸大納言様御病気の其織柄、あまた名医を御喚び出され、中にも手前親方(香具師の親方のことを云ふ)治楽堂よびいだされ、なんぞよき薬はなきかと御尋に預り、さすれば、はやう、うちに帰り、熊野権現様へ七日七夜の断食致し、熊野権現様の託宣(おつげ)の薬とあって、牛王(ごおう)の烏、琵琶の葉を□(口偏に卸)ひ来るとある。琵琶の葉に、どくさって身に効能ある十七味を調合致し、指上げますれば、大納言様御病気早速に平癒有って、此時日の丸の内に三羽の烏御絞、頂戴な(ママ)(を)致しました。各々方は毒を毒とし知らず。酒には酒毒、水には水毒、殻には殻毒、と云ふて三種の毒あり。若し川上に於きま して、一寸八分の青トカゲ渡るも知れず。此時川下におきまして青菜小菜などを洗ひあげ、家に持ち帰りて茹でて食べますれば、腹は忽ちドッサン、バッサンと脹満(ちようまん)の如く腫(は)れきたり。有る時、てまいの琵琶葉湯を一廻り、半廻りも煎じておあがりなさいましたらば、此の二つをもて用ゐますれば、吐(と)は上げ、潟(しや)は下す。古今妙なり。四月上旬より八月下旬まで、毎日毎日御披露仕り、びわえふとう御用と御座ゐますならば、大袋六十四文、小袋三十二文、こころみ小包が一服十六文、茶碗一杯が四文、太白(たいはく)入れまして八文、粉を入れますれば十二文、一杯は各々様方へ御振舞申す。京都な(の)大納言様から御免しの御薬。御観察を以て売り販(ひろめ)る。びわえふとうは之れで御座ゐます。
と、辻辻に於いて述べ立つるなり。□(三水(さんずい)に巨、下に木)等の中には、烏丸大納言御免と筆太に記したる符を掲げ、或は御免の売薬なりとて傲慢にも帯刀し居たる者もありき。
(以上『風俗画報』214号)

 大道所見 高橋柯亭
其の五 蓄音機

一個の書生上がりらしい男が、、蓄音機を前にして、咳一咳の後ち、半漢半俗といふ一種彼れ独創の口調で、蓄音機の巧妙なることを説いて而ふして、彼れ自ら聴音機を一方の耳朶に付して、名妓の端歌とか、名優の声色とかを僅か一銭で聴かせるのである。これは已に五六年前から見掛けるが、始終同位置の曲でないので、今も職人又は小僧抔の手合いに歓迎されて居る様である。

其の六 陶器のせり売り

よく縁日なぞで見掛けるのであるが、荷造りの藁を取り散らしてある中へ、両肌(もろはだ)脱ぎの安坐かきといふ
勢ひで、その前後左右には、種々雑多な瀬戸物を積立てて、殆ど前に紹介した、競売の調子で売り立てて居る者がある。言葉は如何がはしい中国訛りの皺枯れ声で、頗る客足を止めるのが、得意である。兎に角茶器一通り揃って、案外の価で売り飛ばすので、奥様なぞも立ち交じって、非常に賑やかなことである。
(以上『風俗画報』216号)

 大道芸の会会員募集 
「南京玉すだれ」や「がまの膏売り」など、日本庶民の伝統文化「大道芸」を一緒に覚えませんか。練習日は左記の通りです。
●第二九九回目 四月十二日(水(すい))

●第三〇〇回目 五月十日(水(すい))

時間・午後七時ー九時
場所・烏山区民センター 大広間(二階)

 また、歴史や時代背景を学び、或いは技術を向上させたい人のために、学習会や伝承会も行っています。
●日時 ・場所(随時)

 随時HP掲示板(ほーむぺーじけいじばん)等で通知

編集雑記
今月十八日の土曜日、清澄白河にある深川江戸資料館で「江戸の物売りと大道芸」という催しが行われる。これに当初から出演しているのが私たちである。マンネリ化を避けるための工夫が、続いている要因である。今回は新演目も加えた上、地下鉄の広報誌などで宣伝してくれるようである。大いに期待できそうである。是非お出でを!



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