大道芸通信 第304号

画像画像理化学実験上の遊戯

 タイトルを見ただけで如何にも時代がかっているが、明治の理化学者・坪川辰雄が『風俗画報』(明治33年・218号~)に連載したものである。後に香具師が「理化学応用○○」と名付け、街頭で実演。最後に、「これさえ読めば誰でも理化学者になれる」とか何とか言いながら、秘伝書に仕立て販売した。少々読みにくいが、原文のまま紹介する。

其一 食刀の平均

今茲(ここ)に同形(どうけい)なる二個の壜(びん)を取り、第一図に示せる如く山形に削りたる栓を挿し、これを平滑(なめらか)なる机上に並列し、大二図に示すが如く、食刀二本を徳利の栓上に載すべし。之を載するには、先づ食刀の刃端を互に向ひ合せ、其刃の柄に近き部分を栓の山形上に置き、左手の二本指を以て刃の先端を支ゆるなり。其後(の)ち別に小く且つ軽(かろ)き杯、若くは湯呑茶碗の如きもの水を盛り、右手にて前に陳(の)べたる食刀の先端に置き、能く平均を保つ様、手加減能く為すべし。若し不均衡なるときは、徳利の距離を近く(ちかづ )るか或は杯中の水量を減ずるか、何れかの方法を取らば、杯は食刀の柄の重さと相平均し、自然刃先にて杯を保持しうるなり。
さて徐々(しづしづ)両手を放つべし。
其れより金属の釦又は、鉛製の如き重りを糸にて釣り、他物に接触せざる様杯中の水へ静かに釣り卸すべし。然るときは其重りは杯底に近づくに従ひ、杯及び食刀と共に平均運動を以て等しく下降し、又重りを引き上るとき、杯は尚ほ食刀と共に上昇するなり。尤も重りを上下するとも、肺に触れざる様なすこと緊要なり。
 是れ則ち理学上種々なる 原因あれども、先づ粘着 力に拠りて平均を保の理 と知るべし。(以下続出)

其二 風の粘着力

風の粘着力を沿風といふ。沿風とは風の他処に進まんとするに際し、障害物の平滑なるときは之にさへきらるることなく、反て其物体に沿ふて進み行くを称ふ。此原理を知らんに面白き実験法あり。
今茲にビール壜の如きものを置き、其の後面に蝋燭を点し、而して徳利の前面より吹くときは風は徳利に沿ふて進み行き、第二図に示すが如き方向を取り、遂に蝋火を消熄す(せうしよく )べし。故に障害物に徳利あると雖も之に沿ふて進み行くこと明らかなり。また山岳一葉の厚紙を以てし、之を第三図の如く据え、燭火を図中に顕はす如く高所に置き前面より之を吹くと雖も火は消ゆることなく、また燭火を図中に示す如く低所に置き之を吹けば忽ち其の火消ゆるなり。之に依て経験上平滑なる物体には風の粘着して進行すること明瞭なり。
故に空気は平滑なる物体には屈曲と雖も沿ふて進むものなり。之に反して海面若しくは刷子の如き不齋面の物体を以てせは、其空気の進行は刷子の屈曲に沿はずして起行すること第四図に示すが如く、燭火を低所に置くも消ゆることなく、却て高書に持ち行かは吹きたる風之に達し直ちに火を消すなり。尚ほ精しく此風の進行を知らんとするには、数滴の格魯爾水素酸と安母尼亜とを入れたる灌腸器を以て風を出すときは、其薬品の作用に依り、目視するに足るへき有色の風を吹出すことを得。また煙草の烟にて吹くも可なり。
此実験に依り第五図に示すか如く禿山に沿ふて進むも樹木繁茂する山岳を過ぐるときは、前述の刷子の如く高所に向ひ進行し、全く山に沿はす且つ渓谷に下ることなし。此試験は空気の固体に付着する原理を解くものにして水に粘着力あると等し。小供等の遊戯としては容易く為し得るものなり。次は水の粘着力ある実験遊戯を記さむ。

  其三 針筏

此の実験は能く小学生徒の行ふものなれど前項に基づき記し置かむ。
人若し此れを試験せんと欲せば、今茲に清潔にして普く乾燥したる縫針数本を巻煙草用紙一葉の上に載せ、別に茶碗に水を盛り静かに其水面に之を浮ぶへし。
叱るときは其の紙漸次湿りて終に器底に沈み行くも、針は独り水面に止まり浮かぶものなり。此を名けて針筏と云ふ。夫れ銅鉄の緻密の度は殆ど水の緻密の度より八倍なるものにして、針の器底に沈没せざるは各針毎に大気の小層付着して之を同一体をなし、為めに縫い針全体の緻密の度を滅却するか故なり。各針は水よりも重しと雖、数本集合したるものは、水より軽くして其表面に浮遊するものなり。
                                                    (以上『風俗画報』第219号)
其四 不断の水

不断の水とは数年前浅草公園或は縁日などにて、田舎人を迷はしたる水出し瓢箪とて、手品師か得意に演して、其秘法と名け一小冊を諸人に売付けたるものなり。之れ実に理学を応用したる遊戯に外ならず。左に其秘法を顕わさむ。
今一個の瓢或は徳利、土瓶の如きものを図に示すか如く、細き銅線若くは糸にて吊し、此の口と下部なる桶とに一本の硝子管を挿入し、其管端の一方は桶底に出し、是より「ゴム管」にて人目に触れざるよう、草中或は土中を導き(い)なる器底に引くべし。さて水は常に(い)器に断絶せざるよう汲み入れなば(割注=此(い)器は人に知れざるよう幕内に陰し置くべし)、水は圧力に従ひ高所より低所に降るものゅゑ、管内(ろ)を通し(は)器中の硝子管内を潜り(に)なる瓢口に進入すべし。之れより瓢内に充されたる水は溢るるままに瓢口より再び硝子管の外部を伝はり、(は)桶に下るなり。依て硝子管、外部は常に水の伝はるを以て、此管の存在するは人目に触れざるなり。殆ど絶えず瓢口より水の出づるよう認め得らるるなり。又(は)桶に満たる水は自然(に)器に流るるかゆゑ、(に)器の水を汲み出し人に知れざるよう幕内に運びて、再び(い)中に入るるべし。
因みに記す当今松旭齋天 ~などの利用する水芸も 全く此理に従ふものなり。

其五 幽霊の火

幽霊火とは一個の酒精洋燈を据え、其上に円柱形なる黄銅混紡を置き、之を巻くに紙を以てす。巻きたる紙端は手を以て支へ而して之を火上にかざす時は、其火紙に移らずして紙上高く青色の火炎を顕すものなり。
此理は黄銅か火熱の為めに高温度に達するまでは、数分時を要するがゅゑ、紙の焦燃せざるに囚れり。
                                                   (以上『風俗画報』第223号)

坪川辰雄の履歴はわからないが、『風俗画報』第134号から「名所の瓦」シリーズを連載している。
「余が多年蒐集せし瓦は本邦各地に於ける有名の宮殿、城郭、神社、仏閣、邸宅などのものにて新しきあり古きあり其数積んで数十種に及べり今其実形を縮写し以て本誌に寄す先ず瓦の濫觴(らんしよう)(=ものの始まり)及び形状を記さん」で始まるシリーズは中々面白い。紹介したいとも思うが、本紙の趣旨にそぐわないので、残念ながら割愛する。中央図書館等は大抵備えているので、興味の或人は直接ご覧下さい。

 大道芸の会会員募集 
「南京玉すだれ」や「がまの膏売り」など、日本庶民の伝統文化「大道芸」を一緒に覚えませんか。練習日は左記の通りです。
●第三〇一回目 六月十四日(水(すい))

●第三〇二回目 七月十二日(水(すい))

時間・午後七時ー九時
場所・烏山区民センター 大広間(二階)

 また、歴史や時代背景を学び、或いは技術を向上させたい人のために、学習会や伝承会も行っています。
●日時 ・場所(随時)

 随時HP掲示板(ほーむぺーじけいじばん)等で通知

編集雑記
五月の連休も終わり、イベントも一段落したようである。もう暫くすると夏のイベントが始まるけれど、クライアントの要求は年々高くなっている。観客の目も肥えてきたからだが、うかつなものを見せたりすると二度と声がかからなくなる。
 日本庶民の伝統文化・大道芸に対する期待値がそれだけ大きいということだが、それだけに怖い。秋には新しい出演依頼も聞こえるようになったが、皆で出演できるよう練習を励みたい。



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